HOP (HOkkaido Pair of) radars:
北海道-陸別第二短波レーダーによる電離圏・熱圏・上部中間圏の観測開始

 2013年9月5日陸別町で記者発表を行った通り、2013年11月から北海道陸別町ポントマムに建設していた第二短波レーダーがこのほど完成し、連続観測を開始した。真北から左回りに約0~60度の水平角度方向、仰角約0~40度の方向に短波帯のパルス変調電波を放射し、電離圏等から散乱を受けて返ってくる電波エコーを受信し、電場や電離層プラズマ密度変動を詳しく分析する。このレーダーにより、地理緯度45-75度(磁気緯度38-68度)の超高層大気(電離圏: 高度90-1000 km・熱圏: 高度90-1000 km・上部中間圏: 高度 80-90 km)を継続的に監視する。このレーダー装置は、当研究所の"共同利用・共同研究拠点"としての機能の一環として、全国の大学および大学共同利用機関、総務省の情報通信研究機構などの研究機関にも利用される。

また、北海道-陸別第二短波レーダーは、現在極域に展開しているSuperDARNレーダーと同規模の装置を、図1で示すように中緯度に設置し、既存の北海道-陸別第一短波レーダーを含むSuperDARNと協力して、電離圏・熱圏・上部中間圏の環境およびその変動に関する研究を行う(図2)。

SuperDARN計画は現在12カ国(日本、アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、イタリア、フィンランド、スウェーデン、アイスランド、オーストラリア、南アフリカ、中国)の国際協力の下に進められており(ロシアも参加予定)、陸別第二レーダーは既存の第一レーダーに続いてこのSuperDARN計画に参加することになる。現在稼働しているSuperDARNレーダーは北半球で22基、南半球で11基であり、2/3以上が地磁気緯度で約55度以上の極域に設置されている。今回、中緯度の北海道領域に二基目の短波レーダーを設置し、ロシアシベリア域を新たに観測域とすることにより、極域における現存のSuperDARN観測ネットワーク、展開しつつあるアメリカ・ロシア域の中緯度域SuperDARN、また日本国内やロシアにおけるGPS受信機による電離圏観測、高感度CCDカメラによる大気光観測等の協力を通じて、中緯度からオーロラ帯低緯度側境界領域にわたる広範囲の観測網を構築し、高緯度と中緯度を結ぶ広域にわたるエネルギー輸送過程等のダイナミクスを統一的に理解する体制を確立することになる。

図3および図4は、短波レーダーのアンテナおよび送受信機の写真である。主アンテナアレーは16本のアンテナより構成されるフェーズドアレーアンテナであり、送信信号の位相をアンテナ間で調整することにより、水平方向のビーム幅が約5度のレーダービームを、約3度間隔で16方向に向けて発射することができる。副アンテナアレーは4本のアンテナより構成され、散乱を受けて戻ってくる電波の到来方向(仰角)を求めるのに使われる。また、陸別第二レーダーの送受信機システムは、既存の第一レーダーの機能に加えて、新たにステレオ機能を有する。これは、同時に2つの水平角度方向を観測できるものであり、広域観測と高時間分解能観測を同時に可能にするため、新しい科学的発見が出てくることが期待される。観測されたデータはネットワークを通じて研究所に送られる。

図5に、第一・第二レーダー観測により取得されたデータを示す。図は午前4時頃に観測された電離圏プラズマ対流現象である。シベリア上空において、黄色から緑色で示される部分に、西向きで秒速100~数100mの高速流が観測されている。

 短波レーダーの仕様は以下の通りである。

使用周波数:9.10~18.23 MHz 最大瞬間出力: 10kW(平均出力: 約250W)
時間分解能: 1秒~2分 空間分解能: 15 km~約100 km
ビーム幅(水平方向): 約5度 ビーム方向: 水平方向に16チャンネル
ビーム幅(鉛直方向): 約40度 パルス幅: 100~300 マイクロ秒
最大到達距離: 約3000 ~ 3500 km


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