観測所

母子里観測所

電磁気圏環境の観測

母子里観測所では、高感度の分光測光フォトメータを用いて、強い磁気嵐時に発生する低緯度オーロラの観測を行っています。また、磁気圏や電離圏の擾乱を表す地磁気変動の観測を、フラックスゲート磁力計、インダクション磁力計を用いて定常的に行っています。さらに、磁気嵐や雷にともなって発生する低周波数帯(ELF/VLF)電磁放射を、大型ループアンテナで連続観測しています。これらの電磁気圏環境の観測データは国内の研究者に公開され、「宇宙天気」を知るための基礎的な資料として生かされています。

分光フォトメータで観測された低緯度オーロラ。上から、青、緑、赤のオーロラ光の強さと地磁気変動の北向き成分

分光フォトメータで観測された低緯度オーロラ。上から、青、緑、赤のオーロラ光の強さと地磁気変動の北向き成分

大気圏環境の観測

中緯度地域におけるオゾン層破壊の影響や地球温暖化を引き起こす温室効果ガス増加の状況を理解するために、成層圏オゾンやオゾン破壊物質、二酸化炭素やメタン等の大気成分を、高分解能フーリエ変換型赤外分光器(FTIR)を用いた赤外線の太陽光吸収分光観測により高精度で測定していました。また、紫外・可視分光器による成層圏二酸化窒素とオゾンの気柱全量の観測も行っていました。これらの赤外及び紫外・可視分光観測は、地球規模の地上ネットワークである大気組成変化検出ネットワーク (NDACC) やCO2地上ネットワーク観測網(TCCON)と共同し、またその一部として実施していました。これらの観測は2017年度に終了しました。

母子里及び陸別観測所のFTIRで観測された成層圏オゾンの高度別時間変動

母子里及び陸別観測所のFTIRで観測された成層圏オゾンの高度別時間変動。

母子里FTIRで観測されたCO2カラム混合比時間変動。国立環境研究所との共同研究による解析データです

母子里FTIRで観測されたCO2カラム混合比時間変動。国立環境研究所との共同研究による解析データ

 

陸別観測所

陸別観測所(りくべつ宇宙地球科学館2階)は、晴天率が高く大気汚染も少ない理想的な観測条件に恵まれています。同観測所では、赤外線や紫外線の分光観測装置を用いたオゾン等の成層圏の大気微量成分の研究や、全天CCDカメラ・掃天型分光計・磁力計を用いたオーロラなどの地球電磁気現象の研究を総合的に進めています。特に成層圏大気に関する研究は、国立環境研究所が同じ観測室内に設置しているミリ波放射計などのデータも用い、共同研究体制で進められています。また、NDACC(大気組成変動検出のためのネットワーク)等の国際共同プログラムでも重要な役割を果たしています。

赤外線フーリエ分光計太陽追尾装置

赤外線フーリエ分光計(左上)と太陽追尾装置(右上)。太陽を光源として、大気中の分子の吸収スペクトルを測定し、大気中の微量成分の濃度や高度分布を調べることができます。本装置の波長の分解能は、世界最高水準の0.0035 cm-1 を誇り、30分で1セットのデータを取得できます

陸別観測所の高感度全天カメラでとらえられた低緯度オーロラ。赤いオーロラ光(酸素原子、波長630 nm)の強さを疑似カラーで表示

陸別観測所の高感度全天カメラでとらえられた低緯度オーロラ。赤いオーロラ光(酸素原子、波長630 nm)の強さを疑似カラーで表示

陸別上空でのオゾンの高度別時間変動(下)。極渦の到来とともに高度22 kmと30 kmのオゾンが減少しているのがわかります(図中のハッチをつけた期間)。上図は、北極周辺の極渦の分布。この研究は国立環境研究所のミリ波オゾン分光計のデータに基づいた共同研究です。

陸別上空でのオゾンの高度別時間変動(下)。極渦の到来とともに高度22 kmと30 kmのオゾンが減少しているのがわかります(図中のハッチをつけた期間)。上図は、北極周辺の極渦の分布。この研究は国立環境研究所のミリ波オゾン分光計のデータに基づいた共同研究です。

大型短波レーダーで観測した極東ロシア上空の電離圏プラズマの高速流

大型短波レーダーで観測した極東ロシア上空の電離圏プラズマの高速流。短波帯の電波を北~北東方向に向けて発射し、戻って来るエコーを観測することにより、遠方の電離圏の構造及び変動を調べることができます。

富士観測所と太陽風観測施設

富士観測所、豊川分室、木曽観測施設の3地点に設置されたアンテナを用いて、惑星間空間シンチレーションを利用した地上からの太陽風観測が定常的に行われています。

富士観測所に設置されているシリンダー型パラボラアンテナ。アンテナは、東西に配置された5 基のパラボラ枠からなり、枠間に直径0.3mm のステンレス線を3cm 間隔で張り、2000m2 のパラボラ反射面が作られています。観測は全自動化されており、データは名古屋の研究所に準実時間で送られています。同型のアンテナが他の観測点にも設置されています。

微小天体からの電波は、太陽風プラズマにより散乱され、それを地上で観測すると電波強度が変動します。この現象を惑星間空間シンチレーション(IPS)といいます。このIPSを離れて設置された複数のアンテナで観測することにより、太陽風の速度や密度擾乱の強度を測ることができます

微小天体からの電波は、太陽風プラズマにより散乱され、それを地上で観測すると電波強度が変動します。この現象を惑星間空間シンチレーション(IPS)といいます。このIPSを離れて設置された複数のアンテナで観測することにより、太陽風の速度や密度擾乱の強度を測ることができます。

IPS観測は、長期にわたる連続観測が可能で、11年の太陽活動周期と共に変動する太陽圏の構造を求めることができます。また、多くの電波源を観測することにより、飛翔体が観測できない太陽近傍や惑星公転面から高く離れた高緯度を吹く太陽風まで、太陽風の3次元構造を短期間に求めることができます

IPS観測は、長期にわたる連続観測が可能で、11年の太陽活動周期と共に変動する太陽圏の構造を求めることができます。また、多くの電波源を観測することにより、飛翔体が観測できない太陽近傍や惑星公転面から高く離れた高緯度を吹く太陽風まで、太陽風の3次元構造を短期間に求めることができます。

IPS観測データを計算機トモグラフィー解析して得られる太陽風の緯度・経度分布

IPS観測データを計算機トモグラフィー解析して得られる太陽風の緯度・経度分布

鹿児島観測所

鹿児島観測所パンフレット ( 2012年12月発行 )

九州南端の桜島火山の近くに位置する鹿児島観測所では、他大学と共同でELF/VLF電波観測機器、磁力計、大気光全天カメラなどによる観測を実施し、超高層大気、電離圏、地磁気などの擾乱現象の研究を行っています。

鹿児島観測所全景(背後は桜島)

ELF/VLF受信アンテナと地磁気観測小屋

ELF/VLF受信アンテナと地磁気観測小屋

超高層大気中の高度80-100 km及び200-300 kmに存在する原子・分子が夜間に発する微弱な光(夜間大気光)を撮像するための高感度全天CCDカメラ部(右下)、カメラ用魚眼レンズ(右上)及び観測小屋(左)。小屋には高度80-100 kmの温度を測る装置も設置されています。観測場所は鹿児島県佐多町。観測は完全自動化されており、データは準実時間で名古屋の研究所に送られます。

超高層大気中の高度80-100 km及び200-300 kmに存在する原子・分子が夜間に発する微弱な光(夜間大気光)を撮像するための高感度全天CCDカメラ部(右下)、カメラ用魚眼レンズ(右上)及び観測小屋(左)。小屋には高度80-100 kmの温度を測る装置も設置されています。観測場所は鹿児島県佐多町。観測は完全自動化されており、データは準実時間で名古屋の研究所に送られます。

佐多の557.7 nm全天カメラが捉えた、高度95 km付近の大気光波動構造。波動のスケールは15-20 km

佐多の557.7 nm全天カメラが捉えた、高度95 km付近の大気光波動構造。波動のスケールは15-20 km

佐多(左)と、その地磁気共役点であるオーストラリア・ダーウィン(右)に設置されている630 nm全天カメラで初めて同時観測された巨大な電離圏プラズマバブル。サボテン状の黒い部分がプラズマバブルで、その中の電子密度は極端に低い。バブルの最高高度は、磁気赤道で1700 kmに達します

佐多(左)と、その地磁気共役点であるオーストラリア・ダーウィン(右)に設置されている630 nm全天カメラで初めて同時観測された巨大な電離圏プラズマバブル。サボテン状の黒い部分がプラズマバブルで、その中の電子密度は極端に低い。バブルの最高高度は、磁気赤道で1700 kmに達します